インタビュー#003【前編】性教育講師 にじいろさんとあの頃、居づらかった保健室

「性教育」というと、小・中学校や高校での保健の授業を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。

そうです。あの、みんながなんとなーく気まずい雰囲気になって、教科書やスライドの絵さえもじっくり見てはいけないような、不思議な空気が流れていたアノ時間です。

スマートフォンやSNSが広く使われるようになった現代。昔ながらの「性教育」だけでは、正しい知識や情報が分からなくて、誰にも相談できずに、深刻な悩みを抱えてしまう子どもたちがたくさんいます。

そんななか、『分かりやすい・楽しい・恥ずかしくない・押し付けない・おどさない・責めない・聞いて得する性教育』を目指し、講演を行っている元・保健室の先生がいましたー

記者

対話のすヽめインタビュー#003、Twitterでも話題の性教育講師・思春期保健相談士 にじいろさんにお話を聞きました。

あの頃、居づらかった保健室


高校生の頃、授業中に腹痛で座っていることさえ辛いことが時々あったというにじいろさん。

できるだけ席でじっと我慢をしていましたが、”どうしても” というときは、保健室へ行くことがありました。

しかし、そうしてやっと辿り着いた保健室には、いつも生活指導や体育の先生など数人の先生たちの姿が。

お腹が痛いのをギリギリまで我慢して行ったのに、爪や化粧のことを言われたり、”甘えているんじゃないか”などと言われたり。早々に教室へ帰らされることもあったそうです。

「誰が来ても、来た子を受け入れる保健室にしたい」

そうして、にじいろさんはそんな保健室の先生になろうと、養護教諭の養成大学へと進路を定めます。

やっぱり居づらい保健室


数年後、臨時採用で高校の養護教諭となったにじいろさん。

生徒との年の差も近く、地域柄、人懐っこい子が多かったこともあり、生徒たちと良い関係性を築くことができました。

しかし、このときのにじいろさんは、若さもあってか、「とても弱い立場だった」そうです。

保健室にいた他の先生に、「来る生徒が多すぎる」「もう閉めたほうがいいんじゃないか」など言われることも。

生徒にとって、居心地の良い保健室を少し実現することはできましたが、にじいろさんの居心地は決して良くはありませんでした。

みんなが集まる保健室


その後、本採用が決まり、小学校へ赴任。

まだ経験も浅い20代のにじいろさんでしたが、専門職の教諭として意見を尊重してもらえる、とても良い職場だったといいます。

子どもたちと一緒に遊んだり、畑仕事をしたり、楽しい時間を過ごすこともできました。

しかし、にじいろさんは次の異動先に”高校”を希望します。

そこには、高校生が抱える「思春期特有の悩み」にもっと向き合いたい、という思いがありました。

そうしてまたしても高校の保健室が職場となったにじいろさん。そこは、自身がかつて通っていたような、進学校でした。

50代くらいの男性の先生が多く、女性の先生は少数。
その中でも、進学系の教科を受け持っていたり、強い部活の顧問を務める先生の発言力は強く、にじいろさんは自分の意見を言えず、職員としてはおとなしく過ごしていたといいます。

ほとんど保健室にこもりっきりで、ひたすら生徒たちと向き合う毎日でした。

さよなら保健室


そうして、5年間いろいろな生徒と向き合ったにじいろさん。卒業後も保健室へ遊びに来る子がいたり、養護教諭への道を歩んだ子もいました。

第一子を妊娠し、産休に入る日は、生徒たちが壮行会を開いてくれたそうです。
(ええ話…)

その産休後、にじいろさんは復帰せずに退職。家事と育児に新たな生きがいを見出していました。

しかし、二人目の子を出産したあと、旦那さんの実家へと引っ越すことになり、転機が訪れます。

それまで使命感を持ってやってきた家事や育児でしたが、旦那さんのご両親はとても協力的。いろいろと助けてくれるようになり、「自分はなんで仕事やめたんやろう?」と思うようになったのです。

同時に、「〇〇さんとこの嫁さん」としか呼ばれなくなり、「一人の人として見られていないのではないか」と無力感に苛まれるようになりました。

記者

引っ越し先は、若年層の少ない地域。それまで時々会っていた同世代の子育て仲間たちとも遠く離れ、なかなか会えなくなってしまったそうです。

「何かしたい!」と思い悩んでいたにじいろさん。

養護教諭に戻るよりもっと、「心の問題や性の問題、思春期の子の役に立ちたい」と思うようになりました。

とあるベテランの先生に相談に行ってみると、「性教育の講師を探しているから、やってみないか」と誘われ、講演を行うことになったのです。

MEMO
多くの小中学校・高校(進学校は少ないことが多い)では、授業以外に様々な分野の学びの場を設けています。性教育の講演などは、学校によってはゼロ・1年に1回・3年に1回など、その機会はまちまちだそうです。

アンケートはすぐに読むべし

中学校で講演を行うにじいろさん

そうして、講師デビューを果たしたにじいろさん。

堅苦しい講演ではなく、自分の言葉で話そうと思いました。気取らず、気張らず、気さくに。

ざっくばらんに話すことが、「性教育」への壁、思春期の子たちとの壁を取り払ってくれると、これまでの経験が教えてくれていました。

デビュー講演に声をかけてくれたベテラン先生は、講演後に「アンケートを見てから帰って」と言ったそうです。

そこには、子どもたちからのイロイロな声がありました。

それから、口コミだけで少しずつ、いろいろな場所で講演をする機会が増えていったにじいろさん。

記者

1つ講演をすると、それを聞いていた先生が他校を紹介してくれたり、PTAの集まりで話すと「次は上の子の学校で」、先生向けの勉強会で話すと「自分の子の学校で」と依頼がきたり。にじいろさんの講演は、まさに”芋づる式”に増えていったそうですよ。

学校によって、後日アンケートが送られてきたり、先生が感想をまとめて送ってこられたり、いろいろな形があるようですが、にじいろさんは、なるべく全部のアンケートをもらうようにしているそうです。

もしくは、「いいことが書いてあるものより、悪いことが書いてあるほうをください」と伝えているとか。

「先生が省きそうな回答のなかにこそ、生徒たちの本音がある」そう思うからです。

「はじめて最後まで寝やんと聞けました。」

小学校で講演を行うにじいろさん

アンケートは学校によって、記名・無記名・記名は自由、などさまざまですが、記名するかどうかで、子どもたちの書く内容はやはり変わってきます。

無記名のほうが、率直な感想が多く見られますが、記名してもらうことによって、SOSに気が付ける可能性もあります。

にじいろさんの講演では、質問や返事がほしい人は記名してもらうなど、記名はなるべく自由に、とお願いしているそうです。

記名のアンケートで感想を、と言われると、小学生でも“いいことを書かないといけない”という刷り込みがあるのですね…

「ためになりました」「よかったです」といった定型文のような回答が多く見られがちです。

が、それでもにじいろさんの講演に対しては、「悩みが軽くなった」という感想をはじめ、自分の経験や失敗談を書いてくれたり、短くても正直な感想を書いてくれたりする子が多いそうです。

なかでも「はじめて最後まで寝やんと聞けました」(=はじめて最後まで寝ないで聞けました)というなんとも素直な回答。

そんな正直な答えを引き出すのも、きっとにじいろさんの講演ならでは、なんだと思います。

なぜならにじいろさんには、「書かせたからには、大事にしたい」という想いがあります。

これまで、性のことだけでなく、家庭のことや発達障害のことなど、アンケートの回答が元になって、先生が介入できたケースもあったとか。

「こういうことを言ったら怒られるんじゃないか」と言いたいことを言えない子どもたちは案外多く、「アンケートが性の問題に限らず、自分を出すきっかけになれば」とにじいろさんは言います。

同時に、先生たちにとってもアンケートという形で子どもたちの声を聞くことで、”聞く姿勢”が変わり、受け入れやすくなる、という良いループが生まれているそうです。

【後編へつづく】

記者

後編は、にじいろさんが講演で心がけていることや、現在の性教育の問題点などを聞きました。お楽しみに!