インタビュー#003【後編】 性教育講師 にじいろさんとあの頃、居づらかった保健室

『分かりやすい・楽しい・恥ずかしくない・押し付けない・おどさない・責めない・聞いて得する性教育』を目指し、講演を行っている元・保健室の先生 にじいろさん。

後編では、講演のときに心がけていることや、Twitterでの発信について、現在の問題点などを聞きました。

にじいろさんが、性教育講師になるまでのお話はこちら。
インタビュー#003【前編】性教育講師 にじいろさんとあの頃、居づらかった保健室

ヒットを狙え

内容に合わせて、いろいろなスライドを用意。

2016年に講演をはじめたにじいろさん。1年目の講演数10本から、2年目は倍になり、3年目はまたその倍に。

2019年は、年間60講演を行いました。

講演のテーマは、その学校や地域により様々ですが、「テーマをひとつに絞らない」ようにしているそうです。

性教育に熱心な先生がいる学校だと、事前に学校の現状や実態を教えてくれたり、こういう話をしてほしいと依頼があったりするそうですが、”おまかせで”というケースが多い講演会。

にじいろさんは、自身の地元で活動をしていることと、教育現場にいた経験から、その学校にはどんな子どもたちがいるかを理解しやすい、と言います。

例えば、その学校の進学率や就職率、生徒たちの家庭の経済状況、外国籍の子がどれくらいいるか、などによって、話す内容は変わってきます。

また講演の時間も、45分・60分・90分と様々。その学校が、どのくらい・どんな性教育を行っているか、でベースとなってくる知識や理解度も全く違います。

記者

ほとんどの学校で「何も習っていない・習っていても印象に残っていない」子が多く、基礎的なことさえ知らない・正しく理解していない子たちが多いそうです。

しかしどんな学校であっても、「テーマを1つにしてしまうと、関係ない子が出てきてしまう」とにじいろさん。

例えば、性行為の話だけだと、まだ関心がない子たちや二次元にしか興味がない子たちには “自分には関係ない話” になってしまい、妊娠や出産の話だけだと、LGBTの子たちが “関係ない話” と捉えてしまうことも多い。

テーマを1つにせず、いろいろな話題を話すことで、「欲張りかもしれんけど、どこかで何か1つはヒットさせたい。」

誰だって、“自分に関係のない話”をどんなに熱心にされても、記憶には残りません。

だからこそ「話を聞いた経験を作りたい。」 そう、にじいろさんは考えています。

広がれメッセージ

2018年から、Twitterでも発信をはじめたにじいろさん。
ここでも、にじいろさん自身の言葉で語られる、様々なツイートが多くの支持を得ています。

教育に携わる人たちにとって、SNSは悪・NGとされることが多いそうですが、”思春期の子たちと関わるにはSNSを実際にやってみなくては”と尊敬している性教育の先生からSNSを勧められたことをきっかけに、その先生の講演から帰る電車の中で、Twitterのアカウントを作ったそう。

1日1回は投稿しよう、と決め、今では1日に平均2回は発信を続けています。

性教育に携わっている人たちだけではなく、いろいろな人と繋がることができ、全国に同じ想いの人たちがいると知れたことが、大きな励みになっているとのこと。

特に、現在フリーランスで講師をしているにじいろさんには、職場がなく同僚や共有できる相手がいないので、「半分日記みたいになってる」「Twitterでみんなに聞いてもらってる」そうです。

記者

そうしてムリなく発信を続けられていることが、にじいろさんらしいTwitterになっている秘訣ですね。

アフターコロナの性教育

保護者に向けて講演を行うにじいろさん

そんなTwitterでの繋がりがあって、2020年はTwitterを通して、県外からの講演依頼が増えてきていました。

「もっと講演数を増やしたい」と思っていたところでしたが、コロナの影響で予定されていた講演は中止。

それでも、取材を受けたり、オンラインでのイベントに登壇したり、日々発信を続けています。

そんなにじいろさんのTwitterには、講演依頼のDMの他に、高校生など若い子たちからの相談が寄せられることが多くあるそうです。

特に、コロナによる自粛がはじまってから、”妊娠したかもしれない”という相談が増えているそうで、「妊娠したかもしれないけどどうしたらいいですか?」「いつになったら検査薬が使えますか?」といった質問が多いそうです。

「今ならアフターピルが使えるよ」と回答をすることも多いそうで、検査薬やアフターピル(緊急避妊薬)の使い方、どこで・どうやって手に入れられるかということを、中高生自身も大人さえも知らないことが大きな問題だと指摘しています。

現在の日本における、検査薬・アフターピルに関する問題

  • 検査薬は、薬局でも年齢制限なく購入できる。
  • しかし、薬局によって身分証明書の提示を求められることがある。

  • アフターピル(緊急避妊薬)は、未成年でも病院で処方してもらえる。
  • しかし、病院によって「保護者同伴でないと処方できない」と言われることがある。

薬局で検査薬を買うための身分証明書提示も、病院でアフターピルを処方してもらうための保護者同伴も、法的に定められていることではありません。

しかし薬局や病院でそう言われたら、「そうしなくてはいけないんだ」と誰しもが思ってしまうのではないでしょうか。

「大人さえ知らない」ということは、相談されても答えられないだけでなく、子どもたちの身の安全や安心に、大きな壁を作ってしまっているのです。

にじいろさんは、そういった若い子たちからの相談に対して、「次のアクションを起こせるようにやり取りをしている」そうです。

学校に適切な指導をできる教員が少なく、教員側に具体的な知識がないこと、もしくは相談に来た子に怒ってしまうなど、「にじいろさんにしか相談できない」子たちが増えてきてしまっているのです。

MEMO
都道府県ごとに、妊娠SOSなど電話相談ができるところがあります。年中無休やLINEで相談を受け付けてくれるところもあります。

また、にじいろさんは、最近は昔よりアレルギーや虫歯など、なんでも親の責任、と言われてしまう傾向があるんではないかと言います。

失敗したら親が悪い、と言われたり、特に性の問題に関して “自己責任論” ばかりが多く語られてしまい、「大人が教えていない」ことはそっちのけにされている、と指摘します。

記者

親だって教えてもらっていないし、その風潮がまた、子どもたちに誰にも相談しにくい状況を作ってしまっているわけですね。

絵本で性教育

そんなにじいろさんも制作に参加しているのが、イラストレーターたきれいさんによる「性の絵本」。

なんと、購入しなくても、全ページが読めるようになっています(親切すぎませんか!)。
にじいろさんが参加しているのは「性の絵本6」です。

https://seinoehon.jimdofree.com/

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これからももっと講演数を増やしていきたい、というにじいろさん。

特に大学生に向けた講演など、20才前後の一番性教育が必要なのに、一番その機会がない世代に向けた講演をしたい、と熱望しています。

記者

進学校では、性教育にほとんど時間を割かないそうなので、つまりは「大学」こそ、性教育が一番必要なのかもしれません。
現に、大学生の性をめぐる事件や問題などは定期的に報道されているような気がします。

「もっと必要なところに、情報を届けていきたい」

にじいろさんの声は、これからも着実に、イロイロなところに届いていくことでしょう。

対話のすヽめインタビュー#003は、あの頃居づらかった保健室から、どんな子も受け入れてくれる保健室へ、現代の多様な「性教育」に取り組む性教育講師・思春期保健相談士 にじいろさんでした。